湯治は「充電より、放電」
大沼伸治(東鳴子温泉・旅館「大沼」5代目湯守)
東鳴子温泉は、昔から湯治場として利用されてきました。宿ごとに源泉を持ち、泉質も違っています。昔からの常連客は好みの宿と湯がありますが、初めてのお客様はよく分からないのが当然です。当館の湯が合わなければ、ほかの宿を紹介しています。東鳴子は、湯治客と近所付き合いのように親しく接してきて、かつては町全体がひとつの温泉宿のようなものでした。温泉街の道が廊下、宿は部屋で、商店は売店です。
最近は、関東近県から来られるお客様も増えてきました。仕事や生活を離れてゆっくりしたいという方が多いので、最初はこちらからあまり話しかけないようにしています。2日目ぐらいに少し退屈しているようにみえたら、さりげなく街に出るように話してみます。ほかの宿の湯に入るのもいいし、商店をのぞいてみるのも楽しいですよ。特別なものは置いていませんが、みんなが話しかけてくれます。パン屋でお茶をご馳走になって3時間も話しこんでしまうお客様もいます。晴れた日ならトライクで田園のなかを走り回ったり、農作業体験や、林業体験などの湯治イベントも行っています。
温泉に充電に来るという人が多いのですが、私はむしろ放電が必要だと思っています。日常のなかでたくさん溜め込んでしまっているのに、さらに溜め込んだら疲れるでしょう。お湯に入って、自分の体と心が何を求めているのかを聞きながら、動いてみる。湯治とは、自分の体と心を許してあげることです。東鳴子では思い切り放電してください。(トランヴェール 2006・1)
東北新幹線に乗る機会があった。座席前に雑誌がある。目的地までは時間があるので、その雑誌を読んでいた。雑誌は「感じる旅、考える旅 トランヴェール」、テーマは「現代湯治で、癒やしの旅へ」である。その中で、上に記載した「湯治は充電より、放電」が心にいつまでも残る。大沼伸治さんの了解を得て転載した。
まとまった休みが取れる時には、ゆっくり休んで充電して来てください、と言ってきたし、若い時には上司から同じ事を言われたものだ。大沼さんの「充電より放電」を読んで、ハッと気づいた。今までは逆だったんだと。今回の東北地方の旅の最大の収穫であった。 |