<奇跡のぬれ煎餅> 〜小さな煎餅が鉄道を救った〜
銚子電鉄は千葉県最東端の銚子市を走る、全長僅か6.4qの小さな私鉄です。そんな鉄道会社が販売している「ぬれ煎餅が起こした奇跡の実話」を紹介する。
銚子電鉄は過疎化による人口減少や、観光客の減少により年々乗客数が減り、行政からの補助金で何とか運行を維持している状態でした。 昭和30年代に年間250万人以上いた乗客は、平成に入ると100万人を切り、いつ廃線になるかと不安を抱えながら仕事をしていた。
平成18年(2006)、恐れていたことが現実に変わった。当時の社長に横領が発覚。その額は1億円を超え、すでに行政からの補助金は打ち切りになっており、倒産の危機が目の前に迫っていた。しかも、時を同じくして国土交通省の監査が入り、老朽化した線路や踏切の改善・修理の命令も出された。3カ月以内に線路・踏切などの改修をしなければ運行停止。それには約5,000万円もの費用が必要で、会社にとってこれは“死刑宣告”とでも言うべきものであった。
そのうえ車両の法定検査(自動車の車検のようなもの)が1ヶ月後に迫り、費用は1,000万円。これら多額の費用は月間運賃収入が900万円の赤字会社がとても確保できる額ではありません。社員の給料さえも全額払えない状況で、この時の通帳残高は僅かに200万円。銀行からの追加融資も元社長の横領問題で望めず、会社存続は絶望的な状況であった。
それでも何とかしなければならない…
出来る事といえば、数年前より製造・販売を開始した副業の「ぬれ煎餅」を売ることだけだった。電車を走らせる為に、「買って下さい、買って下さい。」来る日も来る日も必死になって売り歩いたが、そう簡単に売れるものではない。現実の厳しさを思い知らされた。「本当にこんなことに意味があるのか?」「私達が思うほどに銚子電鉄は必要とされてないのか?」そんな思いが頭をよぎり、やる気を失いかけていた。
もうダメかと諦めかけていたある日の朝、パソコンを開くと、膨大な数のメールが2,000…3,000件…!「ぬれ煎餅」のご注文が今までに見たことがないようなペースで入り続けていた。一瞬、わが目を疑いました。一体これはどういうことなのだろう…?
実は3日前の夜、「もはや残された時間はあと数日、このままでは完全に資金ショートを起こしてしまう。何かしなければ。」・・そう思った時にふと思いついたのが、インターネットでぬれ煎餅の購入を呼びかけることだった。
「ぬれ煎餅を買って下さい。電車修理代を稼がなくちゃいけないんです。」 という言葉が自然と頭に浮かび、思わずホームページに書き込みをしたのであった。
この書き込みを見た多くの人がインターネットの掲示板やブログ(日記)などで、「ぬれ煎餅の購入」を呼び掛けてくれたためであった。そのメッセージに10日間で10,000人以上のお客様が共感してくれた。
その後テレビなどにも取り上げられ、ぬれ煎餅は爆発的な売上げを記録した。この売上げにより「車輌の法定検査」や「老朽化施設の改修」などの費用を賄うことができた。これはまさに思いもよらぬ「奇跡」であった
。
そして、ご注文をいただいた多くのお客様からメッセージが添えられていた。
「年金生活なので、これが精一杯の買い物でした。ごめんなさい…。」
「彼女との初デートに銚子電鉄を利用した。その時、僕が緊張しているのを見た車掌さんが話しかけてくれ、二人を和ませてくれた。その時の彼女は、今僕の妻です。子供も二人できました。僕達を結びつけた銚子電鉄、あの時の優しい車掌さん、今度は僕が助ける番です。」
「子供達がお金を出し合いお煎餅を注文しました。銚子電鉄がんばれ!」
「私が小さい頃、去年亡くなった母と銚子電鉄に乗った大変楽しい思い出があります。優しかった母との思い出の一部がなくなってしまうのは悲しいです。絶対に守ってください。ずっと応援します。」
メッセージを読んでいると涙が溢れてきた。「ありがとうございます。ありがとうございます。」ただ感謝の言葉しか思い浮かばなかった。
私は「苦しいときに助けを求めることは、恥ずかしいことではない」ということを学んだた。あの時、ホームページにぬれ煎餅の購入を呼びかけて本当に良かったと思っている。もし呼びかけていなければ、もう銚子電鉄は確実に廃線となっていたことでしょう。
また、このような奇跡が起きることもなかったし、お客様の温かい気持ちを知る機会もなかったと思う。
そして今は「多くの人からいただいた温かい想いを、自分達がどれだけ返せるか!」「人のためになれるか!」「このご恩は返さなければいけない!」と強く思っています。だから、私達は電車を走らせ続け、「電車に乗って楽しかった」と思って頂けるように、そして「このぬれ煎餅を食べた人が美味しかった」と、一時でも幸せになれるように、これからも全力を尽くします。
また、この話を読んでいただいたお客様が、「人の心の温かさ」や「諦めない気持ち」、「困った時は素直に助けを求める」など、現代社会の人達が忘れかけたものを思い出し「人と人との温かいつながり」が増えるきっかけになれたら嬉しいです。
今でもぬれ煎餅をご購入していただいたお客様から「電車大丈夫?」と心配されたり、「電車運行がんばって!」と激励を受けたりしている。お客様に恵まれ本当に幸せです。これからも、様々な問題がおこるかもしれませんが、従業員一丸となって頑張っていきます。
銚子電気鉄道株式会社 取締役 総務部長 山ア勝哉(当時 経理課長) |
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